大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)867号 判決

被告人 田中源一郎 外一名

〔抄 録〕

つぎに所論は「原判示第一の(三)事実については十分な補強証拠がない」と争つている。そこで原判決を調査すると、右事実認定の証拠としては被告人田中源一郎の司法警察員に対する供述調書と押収にかかるスイス製腕時計一個が挙げられているだけで他に補強証拠のないことはまことに所論のとおりである。よつて賍品と認められる腕時計の存在は、窃盗事実認定の補強証拠となりうるものであるかどうかについて考えてみると、本件の事案は、要するに被告人が深夜進行中の国鉄電車内で仮睡中の氏名不詳者から腕時計一個を窃取したというのであるが、叙上のように被害者が不明で被害届を徴するに由なく、また他に目撃者もなかつたと推認されるような場合には、賍品と認められる腕時計の存在は被告人の自白の真実性を保障するに足るものであるから、叙上の窃盗事実認定の補強証拠となりうるものと解するのを相当とする。してみれば原判決には補強証拠なくして事実を認定したという違法はない。所論は大に傾聴に値するものがあるけれども本件には適切ではないから遺憾ながら採用できない。

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